歯周病と全身とのかかわり

歯周病を患っていると、他の様々な病気にかかる危険性も高めるということが明らかになっています。

1.脳卒中のうそっちゅう狭心症きょうしんしょう心筋梗塞しんきんこうそくのリスク増大

歯周病菌は歯ぐきの中の毛細血管に入り込み、全身に行き渡るということが研究から分かっています。血管内に入った細菌は血管の内側にとりつき、今度はそこでプラーク(アデローム性プラーク)を形成します。その結果血管が細くなったり、血管の内側に傷がつき動脈硬化が起こり、最悪の場合血管が詰まり破壊されます。

2.感染性心内膜炎かんせんせいしんないまくえんのリスク増大

血管内に入り込んだ細菌が心臓の弁や内膜にとりつき、それが原因となり心臓内部で炎症を引き起こします。

3.糖尿病の悪化

歯周病による炎症によって生じた物質が血管を通じて全身に回ります。その結果、糖濃度を下げるホルモン(インスリン)が作用しにくくなり、糖尿病の悪化に繋がることが分かっています。

4.低体重児出産、早産のリスクの増大

歯周病菌や炎症で産生された成分が血液の中に入り込み、血管中でプロスタグランディンという物質が作られます。
プロスタグランディンは子宮収縮を起こす妊娠促進剤などにも含まれるもので、その影響で早産のリスクが高まります。
また泌尿生殖器での病原菌の増加を助けることにもつながり、それが胎児の成長を妨げるとも言われております。

5.肺炎のリスク増大

今や三大死因の一つに数えられている肺炎。その中でも6割から8割は誤嚥性肺炎ごえんせいはいえんが原因であるといわれておりいます。
高齢になってくると気管に蓋をする弁の働きが鈍り、普段は閉じているはずの弁が閉じきらなかったりすることで、口の中の細菌が気管支や肺の方に流れていきやすくなります。その結果肺炎を発症します。
口の中に病原菌が多ければ多いほど、このリスクは高まるということが研究でも明らかになっております。

歯周病は生活習慣病です。

歯周病は生活習慣が大きく関わっている病気です。私たちがどんなに手を尽くそうとも、患者さんご自身の協力なしには、治すことが難しい病気です。
ここまで色々とお話をさせていただきましたが、歯周病治療全体で考えたら私たちだけで出来ることはほんの一部なのです。
私たちが生きていく上で、一切細菌に触れずに生活していくことは不可能です。
もし歯周病が完治したとしても、その直後から再び口の中には細菌が増え始め、歯科医院でプラークを除去しても、次の日には新しくプラークが作られ始めているのです。
再び歯周病にかからないためには、これらの細菌が再び歯周病を起こすだけの力をつけてしまう前に取り除いていくことが必要です。
そのためには3ヶ月に一度の定期検診だけでは、とても間に合いません。歯みがきを中心としたセルフケアを毎日おこなうことで初めて、良いバランスを保つ事ができます。
治療にも予防にも一番大切なのが、実は毎日の歯ブラシだったのですね。

簡単!! だけど難しい!?

「歯ブラシするだけで良いなら簡単!」
そうなんです!歯周病の予防は簡潔明瞭なのです。
でも、それなのになぜ歯周病はこれほど蔓延しているのでしょうか?
なぜ世界一多い病気にまでなってしまったのでしょうか? 

これはあくまで私の考えですが、まず一つは「意外とセルフケアは難しい」ということが挙げられると思います。
歯の表面はしっかり磨けても、歯と歯の間や奥歯などは汚れを取る事が難しいです。ましてや歯並びが崩れていたりすれば、すべての汚れを取るのは至難の業です。
実際、歯周病やむし歯で来院される患者さんのほとんどの方は、毎日歯ブラシをされているのです。

それなのに病気になってしまう。
思っている以上に難しいのが、歯ブラシなのですね。
もう一つの理由は、「やる気が長続きしない」ということも関係しているのではないでしょうか。
歯科医院に行きセルフケアの重要性を知ったあなたは、きっと今まで以上に歯のケアに力を入れて取り組んでくれると信じています。しかし、そのやる気は日に日に下がります。そして数ヵ月後、いつの間にか以前と同じ方法に戻っていた・・・
そんな経験はありませんか?
様々な理由で、自分の身を削ってでも他を優先しなければならない事も多い現代です。そんな中ではセルフケアの優先順位は下がってしまいますよね。そうでなくともやる気をずっと維持し続けるのはとても難しいことです。
これ以外にも前述したとおり、喫煙や食生活などの生活習慣、ストレスや全身の病気など様々な因子が関係しており、時にはそれらの改善も必要になるのが歯周病です。
こんな風に自分でも予防ができる病気ですが、それ故、健康な状態を維持することが難しい病気なのだと実感しています。

だからこそ、定期検診!

生涯にわたりお口の健康を守り続けていくのは、まさに自分との戦いです。
セルフケアが大変だとしても、一生続けていかなければならないのです。
それは、自分の体のこととはいえ大変なことかもしれません。
私たちは定期検診を通じて、そのサポートが少しでも出来たらと考えております。
自分では気付かない磨き残しや新しくついた歯石は、この時しっかり取らせていただきます。
また患者さん一人ひとり、セルフケアにも癖が出てきます。ご自身では気付きにくいことですので、それについてのアドバイスもさせていただきます。
定期検診という目標があることで、一度やる気が下がっていたとしても、その日が迫ってくるとせめて前日だけはしっかり磨こうという気が芽生えます。たったそれだけでも、5年、10年そのままにしておくよりはよっぽど良いことです。
そして不思議なことに一度検診に来ていただくと、そこでまたやる気が復活するのです。やる気が落ちかけたところで、また引きあがり、でもまた落ちて、また上がる。。。
残念ながら予防に関して私たちに出来る事は限られていますが、そんな風に皆さんのサポートをさせていただければと願っております。

歯周病治療